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わたし to プライド

肉のヒライ代表 平井 雄一郎

祖父の代から続く精肉店

 金がなかった。わたしが家業の精肉店社長に就任した時、会社には驚くほど金がなかった。祖父の代から続けている精肉店で店舗、ハム工場、週に一度の肉のびっくり市に自社牧場とお肉の多角経営の法人だ。月末になると現金売上と入金を予想して給料と支払いを考えるけれど、いつも足りなくて家族や親父に借りたりしながら騙し騙し回していた。

おやじが教えてくれた肉家魂

 当時のわたしは父親が取り組んでいた牧場に原因があると考えていた。売れても売れなくても毎月数百万円の餌を食べていたし、牛を売っても仔牛の導入価格を下回ることもあるぐらい厳しい状況だった。わたしは親父に飼育頭数を減らすように頼んでいた事がある日、家族みんなを巻き込む大喧嘩に繋がった。親父は熱心に取り組んでいる牧場に対する家族の批判に怒り、怒鳴り散らした。家族は支払いに悩むわたしの状況を心配していたので、皆が飼育頭数を減らす事に賛成だった事が余計に親父を怒らせていたように思う。そんな中、親父が言った言葉が「プライド」だった。「わしはプライドをかけて牛を育ててるから絶対に牛は減らさん!」。何故か、その言葉に納得してしまった。逆に自分は文句ばかりで、今まで何をして来たのだろうと。その日からわたしは自分のプライドに賭けて「自社牧場牛の100%自社物流」を自分のプライドにかけて目標にすることにした。当時は出荷量の30%も使えてないぐらい牧場の方が大きくなっていたので簡単な目標ではなかったが、気持ちが前向きになったせいか物事が好転していった。神戸牛の相場が高騰しだし、牧場が一気に利益を出すようになった。神戸牛は店頭よりもネット販売と考え、楽天市場へ出店。楽天市場は年々売り上げを伸ばし続けるようになる。そして2020年。ついに100%自社物流を達成したのだった。享年78歳で他界した親父には100%自社物流達成を報告することはできなかったが、それからも牧場では全国的な牛の品評会で受賞したり、精肉の方も神戸牛の食べ比べ焼肉がさまざまなメディアで紹介されるようになった。

家族として、家業として

 80歳近くになった母は今もお惣菜部門を切り盛りしている。弟は1日も休む事なく牛の世話をし、姉と妹は加工品と経理とわたしのフォローと忙しく働いている。皆、それぞれにプライドを持ってやっているのだろう。時に頑として受け入れてくれない事もあれば、すんなりと同じ方向に向かって進む事もある。「お父さん見てるか?みんな、頑張ってるで!」

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わたしを映す ちいきを写す ito-アイトゥー